所用で5時間ほど外出する休日、車で出発してすぐに携帯電話を忘れたことに気が付いた。一瞬迷ったけど、車を折り返して家に戻る面倒臭さと、予定に遅れる心配もあってそのまま行ってしまうことにした。
思えばこの20余年、携帯電話を持たずに長い時間出掛けることなど一度も無かったような気がする。長患いの持病持ちの父親が生きていた頃は、いつ何があるか分からないからと寝る時も枕元に携帯電話を置いていた。実家から週に何度もかかってくる電話はほとんどが老々介護の母親からの呪いのような愚痴電話だったけど、まれに緊急事態もあるので常に着信を気にしながら生きていた。子どもが産まれたのも同じ時期だったので、なおさら緊急連絡が多く忙しかった。かかってくる電話はほとんどが悪いニュースだから電話が嫌いだったけど、電話を持たずに出掛けるなんて不安で出来なかった。
だから携帯電話を忘れて「まあいいか」と思えた自分に驚いた。今は両親も他界し、子ども達も目が離せる歳になり緊急連絡もトンと減った。ただ単に肩の荷が下りただけの話だ。でも携帯電話を忘れたことで、小さな幸せに気付くこともあるのだなと感慨深かった。
家に帰り携帯電話を確認すると、「帰りにお酒買ってきて」と妻からメッセージが入ってた。そうだろうと思って、お酒買って帰って良かった。