■ルックバックの危うさ

読みやすく、間のとり方も心地よく、絵柄も好きで、悲しみに囚われすぎず前向きな気持ちにさせてくれるとてもいい漫画だった。

だからこそ、この漫画の危うさを感じた。

公式では追求されていないが、漫画内で扱っている事件は実際に起こったものを混ぜ合わせて描かれている。

それも、丁寧な描写をいれて。

果たしてその事件の描写は必要だったのか。

勿論物語の進行上必要なのだろうが、誰がどう見てもあの、痛ましい事件を思い起こしてしまうだろう。

発表された日にちも意図的なものだったと自分は考えている。

描写を入れた理由として、追悼漫画だからと言う人も多い。

しかし誰に対する追悼なのだろう。

自分は事件と直接的に関係の無い人に対してだと感じた。

絶賛する人が多いのも、彼等が直接的に関係ないからではないだろうか。

作者がどちらの立場の方かは分からないが、他者の感情ではなく、自身の過去や感情のみをのせた物語に読めた。

次に、題名と終わりのメッセージに関しても思うところがあった。

この漫画の内容が全てフィクションならば、なんの疑問も抱かずにポジティブに終われた。

現に関係者でないのであれば、この前向きさに救われた人も多いだろう。

前向きなのはいい事である。綺麗である。

しかし、実際にその段階に至るまでどれ程の憎しみや、悲しい時間を過ごすことになるのか。

年数は関係ない。一生前向きになれないかもしれない。

ルックバックは漫画として綺麗だ。

完成度が高く、申し分ない。

感想の多くはポジティブなものだ。

だからこそ隠れてしまった、実際の事件を取り扱う危うさを、感じた人はどれぐらいいるのだろう。

関係者の心を置き去りにして

関係者以外に向けた漫画を、関係者以外が絶賛しているこの光景が

薄気味悪くて仕方がないのだ。

Permalink | 記事への反応(3) | 18:37

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