行為中に首を絞められた。正直無理。
「どうして首元を押さえたの」
「だってMでしょ」
私は元々呼吸器系がそんなに丈夫じゃない。
首締めというにはかなりソフトなものだったと思うけど、苦しかったし、快楽など微塵も感じなかった。
お互いを信頼してるからそういう行為に至っていたのに、また同意のない行動に及ぶのではと思うと無理だった。
説明したら「やり直そう。上書きしたい」って言われたけど、やり直すための信用がもう無い。
イギリスかどこかの教育動画で、性的同意を紅茶に例えるものがあった。
それに準えるならば、「紅茶はいかが」「ありがとう」というやり取りでサーブされた紅茶に唐辛子が入っていて、
「どうして唐辛子を入れたの」
「辛い食べ物が好きでしょう」
「もう飲みたくない」
「ごめんね。入れ直すからもう一回飲んで」
相手が唐辛子を入れていない確証はないし、唐辛子でなくとも他の何かを混ぜてくるのではと身構えてしまう。何年も一緒にお茶を楽しんでいて、私が普段飲んでいるのはストレートティーだって知っているはずなのに。
ティータイムの準備をするのが好きなのだ。どの紅茶を飲もうか、どんな茶菓子を食べようか、と考えて準備するのが好きなのだ。そしていつの間にか紅茶を飲むための手筈が揃ってしまって、相手が紅茶を飲もうというから、それもいいかもしれないねと紅茶を飲んでいたにすぎない。
と、言われたところで、元から私の目的は紅茶を飲むことではないので、奇怪な紅茶を飲まされた後では飲みたいとは思えない。
私はティータイムの準備が好きだった。
紅茶が飲みたいわけではなかった。