西くんは変な男の子だった。女の子みたいなおかっぱで、いつも忘れ物をしていた。先生が怒っても、聞いてるのか聞いてないのかわかんない顔してニヤニヤしてるから、余計怒られていた。
あまりに忘れ物ばかりするので、怒った先生が教卓に西くんを乗せて、靴でお尻をたたいたこともあった。このときばかりは、西くんもニヤニヤをやめて、真っ赤な顔でワーワー泣いていた。
小学校3年生の時、西くんの机がおかしいって誰かが言い出して、放課後に先生と一緒に中を調べたことがある。
机の中には、教科書が全セット置き勉されてきただけでなく、この学年になってから配布された全てのプリントがクシャクシャになって、ギューギューにつめこまれていた。
そんな西くんが、あるとき突然転校してしまった。しばらくたってから、西くんの両親が離婚したことを聞いた。ずいぶん前から家庭内はめちゃくちゃになっていたみたいで、多分、西くんはネグレクトに近い状態だったんだと思う。
離婚が成立したあと、西くんはおじいちゃん、おばあちゃんと暮らすことになったらしい。
西くんがいなくなって1年後くらいかな、校区外の公園で西くんをみかけた。
新しい友達と遊んでる西くんは、おかっぱからスポーツ刈りになっていて、パリッとした白いTシャツと半ズボン姿で、めちゃくちゃ普通の男の子になっていた。保育園から西くんを知ってるけど、こんな西くんはみたことがなかった。西くんは定期的に散髪にいけて、洋服を洗濯してもらえる、ふつうのこどもの生活をしてるみたいだった。
ちょっととまどいながらも、「西くん?」って声をかけた。西くんは、振り返ってちょっと恥ずかしそうにニヤニヤしたけど、すぐに新しい友達のところに戻っていった。