その先生は背が高くて色黒で、年齢はたぶん当時50代。だいたいいつも眼鏡とエプロンをしていて、書写を教えていた。すごく穏やかな声をしていて、普通の座学だったら睡魔に襲われる人が続出していたかもしれない。
私はその先生と特に仲が良かったわけでもないし、もう授業内容も下の名前も覚えてないけど、半紙に入れられる赤い墨と、年賀状に私の名前の漢字を使ったメッセージを書いてくれたことはよく覚えている。
小学校を卒業して何年か経ったある日、新聞にある教員の不祥事のニュースが載った。と言っても全国紙の地域面の片隅だが(不祥事の内容は伏せる)。
名前こそ出されていなかったけど、地元の人間なら少し調べればその先生のことだとすぐにわかるだけの情報はあった。ローカル紙には事のあらましがもう少しだけ詳しく書かれていたが、私も母もその先生がそんなことをするとはとても思えなかった。もう15年近く前の話だ。
人の噂も何とやらで、程なくして先生のことも不祥事のこともみんなの話題にのぼらなくなった。先生がその後どうなったのかも、今何をしているのかも、事の真偽すらも全然わからない。
ただ、少なくとも、先生がいつかの年賀状に私の名前をもじって書いてくれた、未来へのエールとそこに込められた思いは、嘘偽りのないものだと信じている。