今度の春休みにスネ夫が監禁されてる忍者屋敷に行こうという話があがり、その下見に自分と自分の友達の友達が行くことになった。彼女とは一度だけ顔を合わせたことがあるが、挨拶程度の面識しかなかった。ただ藤子F不二雄の全集はすべて揃えていると聞いているので、話の共通項は無くは無い。万が一スネ夫の身に何かあっても、彼女のF知識で何とかなるだろう。こうして小旅行が始まった。代わり映えのしない単調な一本道を車で2時間走らせると、スネ夫が監禁されている忍者屋敷が見えて来た。忍者屋敷というから木造建築をイメージしていたが、実際はコンクリート製の巨大な立方体で、その周りを無数のパイプが覆っていた。「冷却パイプに触れると、手が凍って離れなくなるから気をつけてくださいね」彼女はここに2度来たことがあるらしく手慣れていた。スネ夫のいる忍者屋敷に近づくには、防護服に着替える必要がある。これを怠ると次の面会の許可が降りなくなるし、次の面会まで生きられる保証もない。塵ひとつ入らない密閉された状態である事をお互いにチェックし、忍者屋敷に乗り込んだ。タイマーは15分、20分、25分、30分で鳴るように設定されている。デッドラインは25分で、それより遅れると、30分のベルをあの世で聞くことになる。原理原則として、スネ夫の身に何が起きていたとしても、我々は15分のベルがなった時には必ず引き返さなければならない。過去の面会者には今も水槽の中で一生を送る事になった人が少なくないらしいが、自分はそのひとりにはなりたくない。