職場で席が近くのおっさん、ワイシャツからいつも柔軟剤の良い香りがしていた。
香水のように派手ではないが、甘ったるくなく、花のような、柑橘系のような、清潔感のあるほのかな香り。なんとなく『人』を感じる香りっていうのかなあ。兎角その香りが好きだった。
何の柔軟剤を使っているのかずっと気になっていたら、ある日飲み会で何かの話の流れで「ハミングを使って自分で洗濯している」という話を本人から聞く。
……そうか、ハミングか!
ドラッグストアへ向かった。
丁度柔軟剤が無くなりかけていたから、そんな言い訳をしつつ、柔軟剤売り場へ向かう。ずらりと並ぶ色とりどりの柔軟剤。そしてハミングを発見する。
ハミングってこんなに種類があるのか。
ちょっとびっくりしながら、おっさんが選びそうなやつを考え考え、青色のものを手に取った(香りのテスターは無かったので本当に勘)。
帰宅し、期待に胸を膨らませながら洗濯機をかける。勿論今日買った柔軟剤を使って。
うきうきしながら洗濯物を干すと、おっさんのあの清潔感ある香りが立ち込めてくる。うれしい。当たったな、と思った。
翌日、乾いた服を着ると、やっぱりおっさんの香り。仕事中、おっさんがいなくても、自分の服からおっさんの良い香りがして、その度に少しきゅんとした。
おっさんが居なくなった後も、自分の服からおっさんの香りがする。
おっさんが気難しい人でよく注意されていたこと。おっさんがたまにしょうもない冗談を言って職場を和ませていたこと。仕事がわからない自分に、忙しいのにもかかわらず丁寧に仕事を教えてくれたこと。
嗅覚と記憶ってこれほどまでにリンクしているのかと自分でも驚く。
おっさんが元気にしていてくれればそれでいいや。
マドレーヌを紅茶にひたす文学みたいでいいね