どれだけの人が満員電車に苦しめられているのかと思う。
会社ではきっとすれ違うだけで会釈をするような人たちが、電車の中では言葉も交わさずぎゅうぎゅうになって耐えている。
それだけ密度の高い空間なのだから、もちろん空気も薄い。何人もが吸って吐いた息をさらに吸う。そんな人間の排気ガスで体が満たされるなんて、体にいいわけがない。
この現実から逃れたい。でも目の前には文庫本を取り出すスペースすらない。そうなると自由なのは頭の中だけだ。必死に何か美しいものを想像する。ここではないどこか美しいところ。山と海と・・・
私は自然が美しい土地で暮らしたことがない。だから憧れがある。
イメージするのは、いつも旅先で出会った景色やテレビで見た映像だ。
さあっと視界の開けた平地の奥に構える山。明るい青の海と、それに反射する光。こういうものが、日常にある生活は、どういったものなのだろう。そういう所で育った人は、都会をどう生きるのだろう。