彼女も奥さんもいない僕はどんな物語を語ればいいんだ。死にたくねー、的な物語だけか?
それはそれでリアリティがあって、別にいいんだけど、せっかく戦場に向かうなら、ちゃんと故郷に愛する人を置いて行きたいよね。
そして、写真を持ち歩く。
いつ戻れるか分からない。いつ死ぬかも分からない戦場という非日常に打ちのめされる。
眠る時に思うのはまだ見ぬ赤子の事だけだ。無事生まれたのだろうか。男の子だろうか女の子だろうか、なんて考える。
俺の愛する人は俺が死んだと思い別の人を見つけてる。
俺はそれを知る。彼女は俺が生きてるのを知らない。
俺は悩むだろう。自分がどうするべきか。自分の望みはわかっている。今すぐ彼女の元に行き抱きしめたい。
俺が姿を現すことは彼女の人生を複雑なものにしてしまうだけではないか。
俺は五体満足で帰ってこれた。戦争による精神的ストレスもほとんど見られないという。
社会に復帰することできるだろう。そして、そこで新しい人生を見つけることも出来る。齢もまだ30手前である。やり直すには十分だ。
みたいな話も僕にはないわけである。