今でもあの区分があるのかどうか知らないけど、中学の理科の第二分野、
その中に出てくる「維管束」の問題がなぜかぼくは苦手だった。
何度覚えたつもりになっても、いざ試験本番で、道管と師管の配置がごっちゃになってしまうのだ。
中を水が通っているのが道管で、栄養分が通るのは師管、という役割自体はちゃんと覚えていた。
それなのに、茎を水平に輪切りにしたとき、内側にあるのがどっちだったか、100%間違えた。
基本的には成績がよく、主要5教科500点満点で450はまず切らない生徒だったぼくにとって
これは本当に由々しき事態で、何度も何度も繰り返し覚えこんだ。そしてそのたびに間違った。
あるとき、友達とその話になって、本当にあれがどうしても覚えられないんだ、と愚痴をこぼした。
彼は笑ってこう言った。
「簡単だよ。植物にとっていちばん大事なもの、って言ったら水だろ?
栄養分も大事だけど、花を育てる時にはまず水をやるじゃないか。
大事なものは中にしっかりしまいこむんだ。植物も人といっしょだよ」
だから道管が内側なんだよ、という彼の声を、今でも思い出せる気がする。
彼の説明はそれこそ荒れ地に撒いた水みたいにすぅっと染み込んでいった。
その次の期末考査、ぼくは胸を張って解答用紙に名前を書き込んだ。
道管が内側、師管が外側。もう絶対に間違わない。
ぼくは勇んで解答用紙の端っこをつまみ、今までの雪辱を果たすつもりで一気にひっくり返した。
もちろんそこには維管束の問題があって、いつもどおりに図がついている。
問題文にはこうあった。
「図1は、植物の葉脈を垂直方向に輪切りにしたものである。AとBが示す管の名前をそれぞれ書け」
ぼくは満点を取り損ねた。