私が5歳の時に父は家を出て行った。それから20歳を過ぎた今まで会える頻度は、年に一回から二回が精一杯だ。
幼い頃はただなんとなく父に会いたい気がしていて、夏休みを利用して父方の祖父母の家に遊びに行き、そこで父と会ったりもしていた。ただ姉達から吹き込まれた 父が怖い と言う情報に怯え心の底から父に甘える事も我儘を言う事もなかった。
夏になれば姉妹を召集する父からの連絡を疎ましく思うようになったのは、思春期を迎えた頃だろうか。別に会いたくない訳ではないけれど、父に会いに行くよ!と言うと母は少なからず不機嫌になったし、そんな態度を取られる事すら面倒だった私は、暑いから行かないだの面倒だから行かないだのと理由をつけ、年に一回、姉妹と父で集まる日に出向かなくなった。
たまに家へ来てくれる時は断る理由もないので会ってはいたが、どこか恥ずかしい気持ちと居心地の悪さで父に悪態をつくようになった。
父を恐れる姉達からは、よくそんな風に言えるな!なんて感心されたりもしたが、私は怖い父を知らないし、何より父が父なのかも分からないのだ。幼い頃の記憶がある訳でも、幼い頃の父との思い出がある訳でもない私は、家族みんな、周りが言うから彼を父だと認識している部分もあるのではないか、と思う。
そして姉妹全員に子供が生まれた今、相変わらず父は夏になると姉妹を召集してどこかに行くぞ!と意気込み、正月になると、お年玉持って行くから◯◯の家に集合だ!と息巻く。
家に集合する時はさすがに出向かない訳にはいかないので、出向く事にしているが、最近気づいた事がある。
私は父と話したその日の夜精神的に物凄く不安定になってしまうのだ。
父の話すくだらない話に笑い、振られる話に自分の話をし、私達が仕事に出向くようになれば男が出来るぞ!と断言される。
普段母親をしている私達が、いざ外に出ると女に見られるんだ。そしてコロっと行くで!なんて、根も葉もない理由でそんな事を断言するのだ。
しかしそんな根も葉もない話に振り回されて私は不安に駆られる。
そしてキチンとした理由が分からないまま、夜布団に入ると涙が出たりするのだ。