東京・半蔵門に「ローザー洋菓子店」という老舗洋菓子店がある。
レトロな書体がかわいい青缶に入ったクッキー、シュークリーム、モカロール、プリンくらいしかない、でも変わらない素朴なおいしさがあって、クッキーは手土産に、シュークリームはOLさんたちのおやつにと、界隈では人気の店だ。
前々から品数少ない上に販売される個数も少ないので、午後イチにはすべて完売ということも多かったが、店主が高齢化し、さらに生産数が落ちてしまったと噂に聞いた。それでも半年に1度くらい「ローザーのプチシューが食べたいよねー」などと言って職場で同志を募り、開店時間に電話をかけ、予約したりする。その電話対応を含めた接客がめちゃくちゃ悪い女性店員がいる、というのもこの店を語る上では必須なのだけれど、それはまた別の話。
そして10年くらい前から大型バイクが店内に置かれ始めた。どうやら店主の跡を継ぐ息子がバイク好きらしい。
洋菓子店の店内にバイクがあるだけでも眉をひそめる向きが多かったのに、メンテナンス道具やオイルなども店の片隅に置くようになった。・・・ってことは、店のなかでメンテしてるんかい?はっきりいって、店中がオイルくさい。タイヤくさい。ずっと店内にいる人は気がつかないだろうが、かなりくさい。
菓子類はすべてショーケースに入っているのでそれ自体にニオイがつくことはないが、掛け紙、箱、紐、袋、すべて、微かにオイルのにおいが付着している。それが気になって仕方がないが、店側へ指摘したところで変わりはしないだろうから、あきらめている。
老店主がなくなったら、たぶんローザー洋菓子店も消滅するだろう。跡継ぎがどんなに製菓の腕がよくても、バイクを店内に入れることをディスプレイといって喜んでいるようじゃ、早晩客足が離れる。老舗というのはこうしてなくなっていくのかと感慨深い。