2024-02-07

東京に雪の降った日の夜、私は電車を待っていた。

何本かはやり過ごし、自分の乗る快速電車を待っていた。

快速電車の一本前の各駅停車に、滑り込みで乗り込んだ男が居た。

片手にスマホ、片手に折り畳み傘。

その男は折り畳んである傘を片手で持ち替えようとしたのか、掌の上で傘を回転させた。

その瞬間折り畳み傘は掌から滑り落ちて、電車ホームの間の隙間に飲み込まれていった。

男は電車を降りるわけには行かないが、傘が無い電車を降りてからずぶ濡れになる。

ぽっかりと明けた口がそれを物語っていた。

電車ホームの隙間を覗いていたその顔を上げ、2Mほど隔ててホーム立っている私を見る。

また視線を折り畳み傘が飲み込まれていった隙間に落とし、またまた顔を上げ私を見る。

私を見てもどうにもならないのに。

はいたたまれなくなって視線を外すも、その男視線は感じていた。

(笑って差し上げれば良かったのか?)

電車を降りて係員に頼んだとしても、電車を止めてまで傘を拾ってはくれないと思われる。

恐らくは次の日以降に取りに来いと言われるのが落ちだろう。

男もそれを分かっていたのではないか

ほどなくしてドアは閉まり電車はいものようにホームを離れて行った。

あの折り畳み傘はどうなったのだろう。

保線区職員がいつか見つけて回収するのだろうが、

取得物として届けられるのか、ゴミとして処分されるのかは分からない。

あの男は濡れずに自宅まで帰ることができたのか否か分からない。

しかしたらずぶ濡れになって風邪をひき、こじらせて入院たかもしれない。

東京みぞれが降り、道路が閉鎖され、一部公共交通機関運休などを余儀なくされた夜。


私はと言えば、「明日リモートワークにしまーす」と勝手宣言して帰宅した夜。

様々な人々に、様々なドラマがあった夜。

  • こういうのたまに読めるから増田って良いんだよな また読ませてねー

  • わかる…… どうしようもない共犯者みたいな瞬間が人生にはある

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