2020-01-03

[] #82-4「ニオシ!!!」

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この町で日の出を見たいなら、港近くの展望台が手軽かつ最適な場所だ。

いや、“だった”というべきか。

なにせ、みんな考えることは同じだ。

そして生憎展望台に“みんな”が納まるほどのスペースはない。

物理学だとか統計学だとかを専攻していなくても分かる、単純明快な話だ。

しかし、この世から若気の至りだとか、中年無分別だとかが無くならないのも一つの真理である

走光性の夜虫が如く、展望台に集まる人間絶滅しない。

散乱するゴミ酔っ払い、酔っ払ってないのに変なテンションの輩。

必ずといっていいほど何らかのトラブルが発生するため、近年では予約チケット制となっていた。

それでも何日も前から展望台に陣取る傍迷惑な連中は健在で、それがニュース番組などで取り沙汰されるのが新年風物詩だ。

まり懸命な住民ならば、あそこで日の出を見る選択はしないってこと。

のものでもない太陽を眺めるためだけに金を払って、挙句ニュース番組見世物になるなんて御免こうむる。

じゃあ、どこがイチオシ……いや、ニオシなのか。

意見が別れるところではあるが、俺たちが向かったのは最寄の公園だ。

その公園内にある築山は隠れスポットで、日の出の方角に遮蔽物がほとんどない。

アクセスは良好で、近くに神社があるから、ついでに御参りもできる。

「……人いないね

ひとつ誤算があるとするならば、あまりにも隠れスポットすぎたという点だった。

日の出まで約3時間といったところだが、その時点で築山にいたのは俺たちだけ。

「まあ、いいや。とりあえず場所を確保しよう」

結果として早く来すぎたのは否めないが、いい場所をとられるよりはマシだ。

気を取り直して、俺たちは準備に取り掛かった。

日の出が出るのってこっちだっけ」

「そっちは西だ。新元号天才バカボンでも目指しているのか?」

よさげ場所にシートを広げ、そこに使えそうなレジャーグッズを一通り置いていく。

ゴミ袋は持ってきた?」

レジ袋で十分だろ」

これにて準備万端。いつ日が昇っても問題ない状態だ。

「……」

しかし、やはり手持ち無沙汰というか、娯楽に溢れた世の中では退屈な空間だ。

「なんでもいいから、コンビニで何か買ってこようか」

弟の提案消極的ものだったが、皆それに小さく頷いた。

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