今朝もひどい夢で目が覚めた。
連日の悪夢の原因は落ち着かない世界情勢か、もしくは3日前から患っている風邪による発熱か。
カーテンの隙間を覗き込んでみても、時間を知るのヒントも見いだせぬほどの漆黒だった。
枕元のスマートフォンをおぼつかない手つきで探し当てると、ホタルのように光る画面に時刻が浮かび上がった。
まだ4時を過ぎたばかりだ。
一度は枕に顔をうずめてみたものの、ここ数日、頭のなかで鳴り止まないBGMによって寝付くことができなかった。
彼らが駆け上ったスターダムの行き着く先を体現するような切ないメロディと詩が並ぶ。
洋楽を聞きかじり始めた中学生の頃、明け方の誰もいないあぜ道に自転車を走らせながら言葉の意味もわからずによく叫んだものだった。
「レリピー!レリピー!」
恥ずかしいことに、あの頃はbeがビーと聞き取れず、ピーと発音しながら叫んでいたのだ。
それを猿のように繰り返し叫んでいたのかと思うと、未だに人知れず苦笑が漏れてしまうような封印したい過去の一つだ。
そうしてサビの最後はこう締めくくられるのだ。
「Whisper words of wisdom. Let it be」
解散を目前に、彼らはあの時どんな気持ちでこの曲を演奏していたのだろう。
そして今、世界で繰り返される惨劇に対して何を思っているのだろう。
そんなことを考えると、足りないはずの眠りがまた少し遠ざかっていくことがわかった。
スマートフォンを開くと、青地に白い文字でB!と書かれたアイコンをタップした。
遠い異国で、昨晩警官隊が突入した事件のその後が知りたかったからだ。
色々とカテゴリーを渡り歩きながら、目的の記事に辿りつけなずにイライラばかりが増していった。
事件に対する言及や関連する内容に対する記事ばかりが目につきながらも、肝心の記事そのものにはたどり着きづらいきらいがあるのがこのサービスの悪いところだ。
そうこうしながらもいたずらに時間が流れ、副交感神経が役割の終わりを自覚し始めたころ、全身の血液が急速に一箇所へと集中していくのがわかった。
朝のお通じのお知らせが高らかに腹部から鳴り響いたのだ。
唐突に時間が迫ってきたことを自覚しながらも、それでも該当の記事を探し続けた。
電波が届きやすい寝室にいるうちに事の顛末を知りたかったし、それに、熱を持った身体にはあの個室は寒すぎるのだ。
そうして記事に辿りつけないままに、風邪は容赦なく今度はわたしの鼻の奥を刺激し始めた。
慌ててティッシュを探すと、それまでに募った苛々を吹き飛ばすかのよに盛大なくしゃみを放ったのだった。
しかし、それと同時にわたしの尻は先ほどのアイコンよろしくB!と叫んだ。