子供の頃は猫になりたかった。のんべんだらりと一日中昼寝をしてあくびをしていればいいからだ。
猫を飼っていたから、可愛いとも思ったが羨ましいとも思った。野良猫は大変らしいので、飼い猫になって一日中ゴロゴロしていたかった。
それから育つ中で色々な劣等感を背負うようになって、面倒のない猫になるだけでは耐えられなくなった。
人間になりたくて、人間が羨ましかった。『はやく人間になりたい』と何度も思った。
人間以上の、偉人や英雄になりたかった。そうでもなければ報われないぐらい辛いと思った。
今の暮らしはそれなりに楽で、それなりの成功をして、学生時代にあれほど憧れてもなれなかった『普通』を感じる。
二十五年間一度も、「普通な自分がイヤで、特別な何かになりたい」という気持ちがわからなかった。自分を普通だと思えなかったから。
今ようやく、その気持ちがわかるようになった。
これから、どうすればいいんだろう。
できることは増えた。人間やそれ以上を目指すための計画も何度も立てた。まだ死ぬまでには時間もある。
ただ、目的だけがない。なりたいものがない。夢や希望、執念やコンプレックス、なんでもいい。原動力が、生まれて初めてない。
どうすればいいんだろう。
「どうすれば何かになりたいと思えるか」は、どうすればわかるんだろう。
夏目漱石でも読んでろ。
一般的には結婚して子どもを育ててその隙間を埋める 仕事や趣味で埋める人も多い
渇望が目的を与えてくれなくても役割が目的を与えてくれる 役割は重荷だが自由の刑から逃れる免罪符でもある