その名前との付き合いはかれこれ5年になる。出会いはある間違い電話からだった。
「ハセガワさんですか」「ハセガワさんの奥さんのお電話ですか」
高校の卒業式の前日に今の携帯電話の番号に変えてから、色々な間違い電話が掛かってくるようになった。この番号にして一番初めに掛かってきたのは確か代々木あたりの交番から。まだ高校生だったので知らない番号から電話が掛かってくる心当たりもなく、その電話には出ずに電話が切れてから番号を検索したので記憶に残っている。あるときは水族館でクジラを見ている時にコッテコテの関西弁で「ふとん屋さんですか?」と掛かってきた。若い女性の声で私以外の誰かを訪ねて掛かってきた電話もあった。その中でも一番多いのが「ハセガワさん」宛の電話だった。声の主は皆初老から高齢の男女だった。ラインの友達設定を電話番号で自動追加にすれば、長谷川という名字の50〜60代の女性が一人、30代半ばから後半くらいかと思われる写真の男性が二人追加された。
おそらくこの電話番号の前の持ち主が長谷川さんという名前で、彼らはその家族なんだろうなというところまでは容易に想像がついた。
長谷川さん宛の電話があまりに頻繁に掛かってくるので、ある時電話を掛けてきた穏やかそうな声の女性に詳しく話を聞いてみた。
まずはこの番号はもう長谷川さんの電話番号ではないことを伝え、その次にもしお知り合いで長谷川さんと交流がある方が居たらその旨をお伝えいただけませんかと伝えた。すると、この番号は元々長谷川さんという男性が使っていたがその方は数年前に亡くなり、その奥さんが携帯を受け継いで使っていると聞いたという話を聞き出せた。これまで私の元に掛かってきた電話は亡くなった長谷川さんやその奥さんに宛てたものだったということが分かった。その電話口の女性が周りに伝えてくれたのか、それ以来長谷川さん宛の電話はほとんど掛かってくることはなくなった。
時は流れ大学2年になりFacebookを始めた時、ラインで自動追加された長谷川さんたちと同じ名前の人が友達かもとサジェストされた。
今の番号にして初めに掛かってきた、代々木あたりの交番からの電話を思い出した。長谷川さんの奥さんは今どうしているのだろうか。