僕が小学生の頃、ばあちゃんの家にK'Nex(ケネックス)というレゴみたいなブロックのおもちゃがあった。
僕はそれをとても気に入っていて、ばあちゃんの家にいるときは暇があればそのおもちゃで遊んでいた。
小学4年生だったあるとき、ばあちゃんの家へ行っていつものようにケネックスで遊ぼうと思っておもちゃ箱を開けたのだけれど、どこにも見当たらない。
あれ、どこにいったんだろう、と思ってばあちゃんに聞くけれど、ないわけがない、と言う。
そしたら、横でそれを聞いていたじいちゃんが、あのおもちゃは捨てた、と言う。
理由があるわけでもなく、ただ、捨てた、らしい。
僕とじいちゃんはあまり仲良くなくて、明らかに僕への悪意があって捨てたのはわかっていた。
飲んだくれて面倒を起こしたりするじいちゃんのことを、僕はどこかで見下していたのだと思う。
数年後に祖父は、認知症で要介護認定をもらう状況になっていたので、この頃にはもう兆しがあったのだと、今は思う。
だけれど、10歳の僕に対して、同じレベルで嫌がらせをしてくるじいちゃんのことをそのときは許せなかった。
ただ湧いてくる怒りと悲しさで僕は泣きじゃくった。
見かねてばあちゃんが、同じものを買ってあげるから、と言ってくれたけどそういうことじゃなかった。
悪いのはばあちゃんじゃないから、ばあちゃんに気を使わせてしまったと、さらに悲しくなった。
僕は、じいちゃんが当時買ったばかりのワープロをぶっ壊してやる、と怒鳴り散らしていたのを覚えている。
僕が高校生になって、ふと母とこのときの話を思い出して話していた。
そしたら、自分でも訳が分からなかったのだけれど、涙が止まらなくなった。
いやー、あのとき悲しかったんだよね、と泣きながら母に話した。
初めてこのとき、僕の中でこのおもちゃを捨てられた事件が完結したのだと思う。
結局あのとき、ケネックスを買い直すことも、ワープロを壊すこともなかった。
あれから15年経った今は、じいちゃんはもうこの世にいなくて、あのときのことを思い出しても、少し胸が痛い気持ちになるだけだ。
小さい頃に誰かにされた嫌なことより、誰かにした嫌なことの方がよく覚えている。
あのとき仕返しをしないでよかったと、今は思っている。
悪いのはばあちゃんじゃないから、ばあちゃんに気を使わせてしまったと、さらに悲しくなった。 こういうの本当につらいな いやー、あのとき悲しかったんだよね、と泣きながら母...