バスを待っていると、数メートル先の歩道に緑色の小さな塊がある。葉っぱかな?アゲハの幼虫だった。
歩道の幅は150センチぐらいあるが、すでに半分まで来ている。この幼虫の餌はミカンやカラタチの筈だが近くにそれらしき木は見当たらない。チョウやガの幼虫は食草に卵の状態で産み付けられ、そこを動かずに蛹まで過ごすと思っていたが、実際はわりと頻繁に移動するらしい。分散行動というのだろうか。そのせいで危険に晒されるのは皮肉だ。
芋虫は、虫感覚でいう小走り程度の速度で進んでいる。遠めにはほとんど静止して見えた。何度も歩行者や自転車が通るが、今のところは全て奇跡的に回避している。助けたかったが、気恥ずかしさが先立ち動けない。増田は小さな虫命と自分のプライドを天秤にかけてしまうような人間だった。運が悪い事に芋虫の体の向きが斜めだったので、より長い距離を進まなければならない。自転車が数センチ先をかすめた時は思わず声が出そうになった。しかし、増田の緊張とは裏腹に、芋虫は確実に歩みを進め、半分から三分の二、四分の三、六分の七、そしてついに九割を渡り終えつつあった。そこでバスが来た。
なぜころたし