だからよっぽどひどい踏み方でもない限りは、どれだけ落ち度があろうとまず謝ってくるような奴はいない。しれっと知らん顔で乗り切る。
こういう輩は吊革に掴まっていないのが常だ。手が届くか否かに関わらず、だ、
おそらく毎日同じように漫然と乗車して、同じようにうっかり他人の足を踏んづけることを日課にしているのだろう。
俺はそんな奴に甘い顔をする気はない。断固鉄槌を下す。
踏み返しはハムラビ法典式で、ちょこっと踏まれたら軽く踏み返し、ずんと踏まれたらえぐいのをくれてやる。このあたりは公平公正に。ジャッジは俺だ。
この前は、たぶんこの時間帯の通勤電車に乗りなれていないであろうおばあさんが横に立った。
遠慮をしらないクレイジーなサラリーマン集団にぐいぐい押されて不安そうである。だが手すりにつかまらない。明らかに届く位置にあるというのに。
そして案の定、電車が揺れるポイントで俺の足を踏んできやがった。
無論俺は、おばあさんを警戒していたし、毎日確実に揺れが起きるトラップエリアも把握していた。つまり、よけることもできた。