俺は、よく喋る。
もともと人見知りの方であったし、それは今も変わらないが、それに反比例するように次々と喋りかけてしまう。
おそらく人に対しての防御として喋っているのだと思う。
彼女はずっとペラペラと喋る俺のことをじっと見て、うんうんと相槌を打ちながら、時には同意し、時には反論し、ちゃんと俺の聞いてくれていた。
ああ、ちゃんと話を聞いてくれているんだな、と安心した。
そんな俺を認めてくれた彼女と関係を深める中で、実は彼女を妊娠させてしまったのだ。
情けないことだが、結婚前だった。
そのことを報告されたとき、俺の視界がおかしくなったのを覚えている。
いつも以上に口調が早くなり、吃り、そして会計ないことをベラベラと並べ立てた。
考えがまとまらなかった。妊娠?結婚?大学は?(当時、俺と彼女は在学中だった)
「もう、喋らなくてもいいよ。私、分かってるから」
……ああ。この言葉にどれだけ救われただろうか。分かってくれる、それだけのことがどれだけのことか。そしてどれだけそれに飢えていたのか。
とにかく、それから俺は覚悟を決めた。いろいろなところに挨拶をし、いろいろな人の力や知恵を借りた。
必死に働きなんとか大学も出ることができた。(これは本当にいろんな人に迷惑をかけた)
結婚してからは外では喋り続けることは変わらなかったが、家ではだいぶそれも減った。
喋らなくても伝わるようになった、というのが正しい。
それもそうだ、思えば俺は両親や兄弟などにはそんな発作が起きることはない、つまり彼女は俺の家族となったのだった。
どれだけの恩がなのかは計り知れない。彼女と子供が家にいるということだけで、そして喋らなくてもわかってくれているということだけで、俺は救われている。