幼少期の記憶として最も強く頭にあるのは、怒った顔で何も答えない母親だ。
私含め兄弟全員がよく怒られていた。いや、なんと言うか空気を読めと言う意味でか、よく母に無視をされた。声を荒げるよりも、いないものとして振舞われるのが辛かった。そして、私はなぜ怒られているのか、その理由が欲しかった。
父親はおそらくアスペだ。兄弟全員がその兆候をもつ。母はそんな我々に向き合うのに疲れたのだろう。無視もおそらく育児ノイローゼから来ていたのだと思う。
母は、今では当時の育児放棄を帳消しにするかのように振る舞う。優しくて、話もよく聞いてくれ、子供のために何かしようと必死な、どこにでもいる普通の母親だ。
父はいつまでも変わらない。少し鬱になった時期はあったが、今ではすこぶる煩いくらいに元気である。
だが、幼少期の愛情不足は消せない。兄弟の1人は引きこもっているし、残りは働いてはいるが、コミュニケーション能力が不足していたり、社会性がなかったり、人並みに生きていくのにとても苦労している。私もずっと自殺願望が消えない。
相槌だけがうまい、聞き手になるのがうまい、でも話せない。周りに散々言われて来たことだ。家族で一番話す私ですら、大人しいですねと言われる。
あの時、母が我々の話を聞いてくれたら、状況は変わっていたのか?
主張できる人間に育ったのか?
話を聞いてもらえる人間になるにはどうすればいいのか?
いまだにわからず、母の影を追っている。