おじいさんとおばあさんと桃太郎がいました。
おじいさんは山へしばきに、おばあさんは川へ洗濯に、桃太郎は家で寝ていました。
おばあさんが川で洗濯していると、向こうの方から大きな桃が「どんぶらこ! どんぶらこ!」と流れてきました。
おばあさんはそれを見るなり川に入り、桃を見事に受け止めました。
おばあさんは大きな桃を持って家に帰り、おじいさんが帰ってくるのを待ちました。
桃太郎は寝ていました。
しばき終わったおじいさんが山から帰ってくるとおばあさんは言いました。
「じいさんや」
「なんじゃばあさんや」
「大きな桃を拾いましたぞい」
「なんじゃばあさんや」
「おいしそうな桃じゃありませんか」
「なんじゃばあさんや」
おばあさんは台所に行って包丁を手に取りました。
その時です。
寝ていたはずの桃太郎がおばあさんの手を握って首を振っています。
「それはいけない」
「タイムパラドックスが起きるぞ」
「桃太郎や。わしは桃が食べたいぞい」
「それはいけない」
「じいさんも食べたいと言っておる」
「それはいけない。タイムパラドックスが起きる。あの桃からは桃太郎が生まれることになっている。しかし私はすでにここにいる。ふたりの桃太郎が出会うとき、世界は滅ぶだろう」
「桃が食べたいのじゃ」
「それはいけない」
「おじいさん、桃をしばいてはいけないよ」
桃太郎は優しく言いました。
大きな桃はそのまま取っておかれることになりました。
それからしばきと洗濯と睡眠の穏やかな日々が続きましたが、何年か経ったある日桃太郎は気付きました。
「私は鬼退治に行かなければならない。そうでないと歴史が変わってしまう」
大きな桃は不思議なことに腐らずにその日まで家にありました。
あの桃から桃太郎が生まれなければ鬼がのさばることになってしまいます。
「おじいさん、行こう」
桃太郎が手を出すまでもなく鬼はおじいさんがすべてしばいてしまいました。
「おじいさん、それはいけない。桃太郎が鬼を倒さなくちゃいけないんだ」
「なんじゃばあさんや」
「私はおばあさんではないよ」
桃太郎は優しく言いました。
二人が鬼の持っていた宝を持って帰るとおばあさんがちょうどあの桃を切ろうとしているところでした。
「おばあさん、それはいけない」
桃太郎は言いました。
「わしは桃が食べたいぞい」
「タイムパラドックスが起きてもいいのか?」
おばあさんは桃を食べられませんでした。
ある日桃太郎は考えました。
鬼を退治したのがおじいさんなら、自分とは、つまり鬼を倒さなかった桃太郎とは何者なのだろう。
すでに歴史改変が起きていました。
「あの桃が食べたいか? 答えろ」
「桃が食べたいぞい」
その夜、おばあさんが包丁を持って桃を切りにかかりました。
甘い香りが漂ってきました。
桃太郎は打ち震えました。
おばあさんはさっそく桃を食べています。
桃太郎はむしゃぶりつくおばあさんを見てほほえみました。
ですが表情が一瞬にして変わります。
「ああ、なんてことを」
桃太郎は桃から生まれた直後にしばかれてしまった桃太郎を庭に埋めました。
おばあさんは桃を食べています。
桃太郎って、NK老夫婦にいきなり子供が出来て、 「川から流れてきた桃をきったら子供がでてきた」 とか言ってたら完全に誘拐案件だよなあ。 仮に本当に桃から出て来ても、自分がジジ...