礼儀正しく、控えめで、誰も、特に事実として何か悪さをされたこともないのだけど、村の中では突出して頭がよかった。博識で何でも知っていて知恵をくれた。
しかし、周囲からは恐れられ妬まれ「あいつには近づくな」とか、「村の全員から嫌われている奴だ」とか、根も葉もない噂が広まっていた。村人は全員その噂に飲まれ、全員でいじめた。いじめはひどいものだった。家に泥を巻き、どなり散らし、みんなの前でからかって、笑ったりもした。
しかし、ある時、村で、特殊な流行り病が広がった。これまでに見たことのないような特殊な症状で、突然、狂ってゾンビになり、他の村人に噛みついて仲間にする、という伝染病だった。
村人は、多くの医者を訪ね回ったが、誰一人として直すことができなかった。そんな時、実は、長年、村で村八分にして、いじめてきた
人間が、その病気の直し方を知っているらしい、という噂が広がりだ
した。村人みんなも、「あいつなら、頭がよすぎるので、知っているかもしれない」と納得するぐらい説得力のある噂だった。
実際に、その人は直し方を知っていた。それは、その人が苦労の末に、発見した特殊な治療薬を飲むことだった。
いつも、いじめてきた人間だったが、村の人は、困ったことが起きると、その人のもとに、助けてもらいにいかないといけなかった。
そして、村人は薬をもらい、病気を直し、いつもどおりの平和を取り戻した。そしてまた村八分が再開した。
なぜなら、病気を直してもらったかもしれないが、その病気を作り出したのもそいつのしわざじゃないか、という噂も広がったから。
もちろん、まったくの濡れ衣だった。
しかし、なぜそんなことが起きるかというと、
自分は恨まれているんじゃないかという恐怖感を、膨らませることになったから。そのため、何か良くない事が起きれば、村八分されるさんのせいだと思うようになっていったのだ。
物語の捕捉
村八分されるさんは、勤勉で博識で親切だった。実は信仰心を持っていたからなのだが、村の人間は信仰心がなく無知なので、村八分されるさんの勤勉さや博識さが、何をモチベーションとしているのか謎で、恐怖だった。