すごい女がいたもんだ。
いやそれはもちろん四股なんて世の中にはありふれた話なのかも知れないけど、ずっと喪として生きてきた僕にとっては人生で一、二を争う椿事。もちろん僕は当事者じゃないけど、そんな女を生で見たのは生まれて初めてで呆れてる。と同時に感嘆している。
その女性は、彼氏Aと遠距離になって、すぐ近くの男Bと浮気をして、浮気のことを相談した男Cと深みにはまり、Cとそういう関係になってしまったことを相談した男Dと恋に落ちてしまった。
特別美人でもないし特別性格が良いわけでもないしお金を持っているわけでもない彼女を、彼らは本気で追い掛け、泣いたり縋ったりしている。3人とも欠点の見当たらない彼女がいるのに。要らないならくれよ……。
全員「こんなことあなたにしか相談できない」と涙を見せられて陥落したらしい。喪男でもわかる地雷じゃないか?
まあ別にどこか僕の知らないところで誰かが四股掛けてる分には良いんだけど、その女性と、B、C、D、そして僕は、いやでも毎日顔を合わせなければならない閉鎖的な環境にあるため、僕や僕の周りの人々を巻き込んで、狭い人間関係が地獄か修羅場かといった様相を呈している。BもCもDも冷静で倫理的な人たちだったんだけどなー。
いまや彼らに対する評価は地に落ち、当事者以外の生産性も如実に低下してしまった。
これが魔性の女ってやつ? ファムファタル? 便宜上彼女のことを僕たちは木嶋佳苗と呼んでいるんだけど、女性1人で城は傾くし人は死ぬ、ということを初めて実感した。
ちなみに僕は初期のころからずっと彼女と対面でこの件の相談に乗ってきたんだけど、一度もそういう雰囲気にならなかった。もちろん「こんなことあなたにしか相談できない」とは言われたし、僕はときめいたけど、彼女が僕に隙を見せることはありませんでした。喪で良かった。