私が生まれて2ヶ月後に交通事故で亡くなったと聞かされていたが、名前も知らず、写真1枚もなく、お墓参りもしたことがなかった。
それが当たり前で生きてきたから、不思議に思うことはなかった。
1つ上の姉は、私よりは父と過ごした思い出があるからなのか、中学生頃から父のことが気になり、調べていたらしい。
姉は幼い頃から絵を描くのが好きで、家にこもってよく絵を描いていた。
高校生になり、元々こもり気味だった姉が高校を辞め、部屋に引きこもって絵を描くようになった。
母と妹(私)は同じ家族、私は父方だ、というような内容の文章を書くこともあった。
あまり気に留めていなかったし、当然私は父のことなどさっぱり知らなかったので、はてなが浮かぶばかりだった。
成人する歳になり、姉も家を出て働き出すようになったころ、何度目かの帰省時に母から話があると言われた。
父の話だった。
会社勤めでありながら画家をしており、絵で食べて行きたかったため、収入面で祖父と喧嘩し別れるに至ったとのこと。
その後、交通事故で亡くなったこと。
成人してから話そうと決めていたということ。
多分、名前はどうでもよくて、どんな人であるとか、何が好きだったとか、そういったことが私にとっては大事だったんだと思う。
その夜は母と姉と3人で号泣して、泣きすぎてティッシュが足りないね、って笑った。
私がこれまで生きてきた20数年間で、父のことを考えたのはたった数時間に過ぎない。
だからせめて父の日だけは、顔も知らない名前も知らない父のことを考えようと思い、これを書いている。
今年も、お母さんは元気に生きています。私も。