2015-06-22

父の日

物心ついた頃には、既に母子家庭だった。

私が生まれて2ヶ月後に交通事故で亡くなったと聞かされていたが、名前も知らず、写真1枚もなく、お墓参りもしたことがなかった。

それが当たり前で生きてきたから、不思議に思うことはなかった。

1つ上の姉は、私よりは父と過ごした思い出があるからなのか、中学生から父のことが気になり、調べていたらしい。

姉は幼い頃から絵を描くのが好きで、家にこもってよく絵を描いていた。

高校生になり、元々こもり気味だった姉が高校を辞め、部屋に引きこもって絵を描くようになった。

母と妹(私)は同じ家族、私は父方だ、というような内容の文章を書くこともあった。

まり気に留めていなかったし、当然私は父のことなどさっぱり知らなかったので、はてなが浮かぶばかりだった。

成人する歳になり、姉も家を出て働き出すようになったころ、何度目かの帰省時に母から話があると言われた。

父の話だった。

会社勤めでありながら画家をしており、絵で食べて行きたかったため、収入面で祖父と喧嘩し別れるに至ったとのこと。

その後、交通事故で亡くなったこと。

成人してから話そうと決めていたということ。

名前はそのとき初めて聞いたけれど、忘れてしまった。

多分、名前はどうでもよくて、どんな人であるとか、何が好きだったとか、そういったことが私にとっては大事だったんだと思う。

その夜は母と姉と3人で号泣して、泣きすぎてティッシュが足りないね、って笑った。

私がこれまで生きてきた20数年間で、父のことを考えたのはたった数時間に過ぎない。

からせめて父の日だけは、顔も知らない名前も知らない父のことを考えようと思い、これを書いている。

今年も、お母さんは元気に生きています。私も。

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