ゴールデンウィークは多くの人にとって「とくべつ」な日だ。
しかし、その前日は違う。「とくべつ」じゃない。けれども僕は、一貫して、ゴールデンウィーク前日がたまらなく好きだ。ゴールデンウィークの方はどうでもいい。
「まるで世界を運ぶワゴンから落とされたみたい。それって何か面白いわけ?」
沸騰した湯のなかに、パスタをきっかり90グラム投げ込んだ。そしてソファに座り、現状を整理し、これからどうするかを考えた。これからの僕は「奴」にどう立ち向かうか。パスタの茹で上がるのを待ちながら、これからどうすべきかを考える時間が、人生にはどうしても必要なのだ。
パスタの湯切りをするため、キッチンへ戻った。それときっかり同じタイミングで、玄関のドアが開いた。
僕は瞬時に「奴」に居場所を悟られたことを理解した。「奴」は黒く、その輪郭は曖昧だ。しかし僕には「奴」が攻撃態勢に入ったことが分かった。危ない。
僕は、スコッチウイスキーのビンを楯がわりに「えいやっ」と奴の攻撃を受け流した。そしてすかさず「おらよっ」とスコッチウイスキーのビンを振り回した。胴体に当たり「奴」はうずくまった。「こんにゃろ! こんにゃろ! こんにゃろ!」僕はやみくもに、スコッチウイスキーのビンを「奴」目掛けてきっかり20回振り下ろした。「奴」は液状になると、吸われるようにして排水口からどこかへ行った。
「二度とくるんじゃねえぞ! このばかちんが!」