2013-05-05

鳩を燃やす

「なにしてんの?」

聞くまでもないことだった。石の上に並べられた鳩の首と、その手に握られた包丁を見れば、彼が鳩を解体してることは明らかだった。だから理由を聞きたかった。なにしてんの?それ?

ポイント集めてるんだ」

特に気にした様子もなく彼は答えた。

ポイント?」

「そう、ポイント

「なにそれ?皿でも貰えんの?」

「まあ似たようなもんかな、っと」そう言って彼は後片づけを始めた。穴を掘り、胴体を埋め、火を起こし、その間に水場で包丁まで洗い始めた。

彼の行為よりも、彼の受け答えやそんな様子に、呆気にとられてしまった。庭で鳩を解体するなんて異常事態を、当たり前のようにこなす彼は、それどころかそんな私の姿を見てこんなことまで言った。

「はは、鳩が豆鉄砲くらった顔でもしてんの?」


彼が学校へ行かなくなったのは半年前のことだった。理由はよくわからない。ある日突然彼は学校へ行かなくなった。彼の母である叔母が聞いてもなにも言わなかったし、学校でもなんら問題はなかったらしい。叔母は仕事で忙しい人だったし、ちょうど出張が続いたせいもあって、そのまま1か月が過ぎ、3か月が過ぎ、今に至る。

家のことは今も昔も私がやっていた。職もない私にとってはいバイトだったし、彼がいたところで手間はほとんど変わらないから、特に気にもしてなかった。食事を作り、部屋の前に置き、かごに入った洗濯物を洗い、本を読んで、寝る。いとことは言え彼と初めて会ったのは大きくなってからだったので、顔を会わさない生活は私にとっても好都合で、そんな気楽な生活を送っていた。


「で、それ、どうすんの?」

いくつも並んだ鳩の首を見ながら私は聞いた。

「燃やすんだよ。それで完了」

3週間くらい前に部屋から出てきた彼は自然体でケロッとしていた。憑き物が落ちたというか、なにかすっきりとした表情をした彼は、とても半年もの間引きこもってたようには見えず、それどころか、なんだか健康になったようにすら見えた。そうしてどこか感じがよくなった彼のことを私は気に入っていた。

そう思ってた矢先にこんなエキセントリックなことを仕出かしてたわけだけど、それでもべつに嫌悪感はなかった。彼が当たり前のようにこなすものから、私にもなんだかそれが当たり前のように思えてしまった。ごはんの前には手を合わせるとか、わるいことをしたらごめんなさいとか、そんな風に。

そして彼はたき火の中に鳩の首を入れて完了した。時折悲しげに、時折楽しげに、概ね淡々と、私としゃべったり、笑ったり、つらそうな顔をしたり、鼻歌を歌ったり、ぼーっとしたりしながら、完了した。よくわからない何かを完了した。


「終わったの?」

「うん、終わった」

それで結局なんだったのかもう一回聞こうとしたら彼が家へ戻り、何かを持って帰ってきた。

「なにそれ?」

「いも。食わない?」

そうして彼と私は芋を焼いて食べた。不思議と鳩の血や頭のことは気にならなかった。ただほくほくとしておいしかった。そんな印象しか残らなかった。

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