◆肩書、ハーバード大に確認せず
振り返れば、取材の過程で何度か、森口氏の虚偽に気づく機会はあった。
「ハーバード大客員講師」という肩書は、過去の新聞記事などで使われてはいたが、ハーバード大に確認していれば、否定されていただろう。
過去に森口氏が一流専門誌に発表した論文も、その後の確認取材で、専門家の厳格な審査「査読」を受けない自由投稿欄が多かったこともわかった。事前に詳しくチェックすれば、こうした不自然な実態を見抜けた可能性が高い。
また、〈1〉前提となるはずの動物実験の論文が確認できない〈2〉倫理委員会で承認されたとの確証がない――といった点を軽視せず、取材を積み重ねていれば、今回の誤報は避けられただろう。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121013-OYT1T00140.htm?from=tw
問題は記者の専門知識の不足ではない。
無数に枝分かれした分野の先端を記者があまねくフォローできるような体勢を敷くことは現実的に不可能だ。
また、学者を紹介する際、業績や肩書きを所属機関等にダブルチェックしていない事を責めるのも酷だ。普通、大学の公式サイトに森口氏のプロフィールが乗っていればそれを信用するし、もし虚偽ならば大学側の責任でもある。
ただ、それでもこの誤報は防ぐことはできたと思う。疑うべきだったポイントは2点。
「わざわざ学者が自分で新聞社に売り込んできた」という不自然性と、「今後大々的な発表を予定している」と言う不確実性。
記者は、こんな成果なら放っておいても大騒ぎになるのになぜ自ら売り込むか、問うべきだった。
そしてデスク側は、少なくとも正式な発表と学会の反響が”事実”として確認できてないうちに、なぜ急いで大々的に掲載する必要があるのか、問うべきだった。