2012-03-19

**引用文: 岩倉信弥、ホンダ常務仕事にかける思い

 「ホンダはどうした」「ホンダらしくない」という批難の声が、社内外のあちこちから聞こえてきた時があった。現場で車を作っている身としては、針の筵に座らされているような日々を送っていた。そんな時に本田さんが言った。

 「君たちは、腹がへって死にそうな人に、『すき焼きの肉を買いに行きます』なんて言うのか!」

 それは、どんな人たちの声よりも鋭くわたしの胸に突き刺さった。

[中略]

 上級車思考が進んでいた時のことだ。わたしたちも、従来のものよりずっと性能のいい上級の車を投入したり、アメリカ向けに開発した大型車を急遽、日本市場に投入したりしていた。が、いずれもお客様の動向を的確に捉えているとは言えなかった。

 お客様ニーズを最優先するという仕事の基本原則を忘れてしまっていたのだ。その結果、頭でっかちになり、地に足の着いていないことを考え、お客様にそっぽを向かれてしまったのである

 以来、わたしは、仕事では「お母さんのおにぎり」をお手本にしようと考えるようになった。

  母親子どものためにおにぎりを作る時、どうするだろうか。

 材料は決して特別なものを使うわけではない。しかし、なんと言っても母親子どもの好みを知り尽くしている。「好み」とは、好き嫌いや味だけではない。どれだけ食べるか、どんな大きさなら食べやすいか、食べやすい形は何か、栄養的にどうか、暑い時期ならいたまない工夫も考える……。

 さらに、そのおにぎりが日々のお弁当なのか、遠足なのか、いつどこで食べるのか、体調はどうか……までを考えて、作り方を変える。そして、こう作ろうと決めたら、子どもが喜ぶ顔を思い浮かべながら、やわらかすぎず硬すぎず、心を込めて握るのだ。

 それは、どんなに仕事に慣れても、いや、仕事に慣れた時こそ、忘れてはならない仕事の基本だと思う。

 おなかをすかしている子どもに、先々のすき焼きの話をしたって喜びはしない。

 タイミングのいい「おにぎり」こそが、最高のご馳走なのだ

出典: 本田宗一郎に一番叱られた男の本田語録―人生に「自分哲学を持つ人」になれ!

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