大人はウソはいけないことだと説く傍ら、サンタという共同幻想に自覚的である。
そして、いつの日か子供だった俺たちはその共同幻想に打ちのめされ、いつの日か立場を変えてその共同幻想の住人となるのだ。
クリスマスの日が近づいていた。
宗教と関係の深い祭りではあるものの、大半の人間はそんなこと関係なしに興じる。
東方の三賢者が誰かは知らなくても、クリスマスに欲しいものが何かは知っている。
いつもと違う日であるという華やかさ、ケーキや美味い料理、あとはプレゼントだ。
うちの両親はこのテの行事をそれなりに力を入れてやるタイプだが、その準備の最中に何気なく弟に訊ねるだろう。
「クリスマスには何が欲しい?」
弟は予期していたのか、まるで練習していたかのように淀みなく言う。
そして、これまた予め用意していたかのように両親は応えるわけだ。
「頭が悪くなるぞ」
「そうよ。あと、目も悪くなるわ」
両親自身、元から断るつもりだったので実際のところ目や頭が悪くなるかどうかは関係ない。
ましてやサイボーグの母が「目が悪くなる」とかいうのだから説得力は皆無だ。
弟は半分予想していた結果だとはいえ、それでも残り半分は期待していたため落胆する。
それでも弟がここで大人しく引き下がったのは、他にアテがあったからだ。
ああ、俺じゃないぞ。
両親はこのテの行事に力を入れていると語ったが、町ぐるみで精力的であることが大きく関係している。
町おこしも兼ねて行うクリスマスを盛り上げるための大掛かりなイベントだ。
参加者の子供たちはアトラクションをクリアしつつ競争し、見事サンタのもとへたどり着けば、好きなプレゼントを後日貰えるというものだ。
素晴らしいのは、よほどの問題がない限り保護者の介入が禁止されていることだ。
つまり、親に突っぱねられても、ここでプレゼントを手に入れるチャンスがある。
弟は勿論これに参加する。
あえて問題があるなら、弟のような子供はたくさんいて、親に目当てのプレゼントを貰える算段があっても、欲望というものは際限も貴賎もないことだが……。
≪ 前 きたるイベント当日。 アトラクションに使われる大掛かりなセットがスポーツ施設にずらりと構えらている。 今回は製作者の興がノリすぎたのか、かなり大規模かつデザインも...
≪ 前 「うーん、ちょっと遠いなあ。弟の姿が見えない」 「大丈夫よ、私にはズーム機能つきモニターが付いているから」 「ああ、そういえばそんな改造したことあったっけ」 母が...
≪ 前 タオナケの序盤の妨害も結果的に弟とその他の参加者の差を広げることとなり、ドッペルの意外な助けもあってダントツトップを維持し続けた。 その後のアトラクションは逃げ切...