2016-12-23

[] #10-1「サンタプレゼント争奪戦

サンタというのは奇妙な存在だ。

大人ウソはいけないことだと説く傍ら、サンタという共同幻想自覚的である

しかも時には大掛かりに、このウソを作りあげる。

そして、いつの日か子供だった俺たちはその共同幻想に打ちのめされ、いつの日か立場を変えてその共同幻想の住人となるのだ。


クリスマスの日が近づいていた。

宗教関係の深い祭りではあるものの、大半の人間はそんなこと関係なしに興じる。

東方の三賢者が誰かは知らなくても、クリスマスに欲しいものが何かは知っている。

いつもと違う日であるという華やかさ、ケーキや美味い料理、あとはプレゼントだ。

うちの両親はこのテの行事をそれなりに力を入れてやるタイプだが、その準備の最中何気なく弟に訊ねるだろう。

クリスマスには何が欲しい?」

弟は予期していたのか、まるで練習していたかのように淀みなく言う。

バーチャルリアリティのやつ! ボーイの方じゃないよ!」

そして、これまた予め用意していたかのように両親は応えるわけだ。

「頭が悪くなるぞ」

「そうよ。あと、目も悪くなるわ」

弟のねだった玩具以下の子供だましな文言である

両親自身、元から断るつもりだったので実際のところ目や頭が悪くなるかどうかは関係ない。

ましてやサイボーグの母が「目が悪くなる」とかいうのだから説得力は皆無だ。

弟は半分予想していた結果だとはいえ、それでも残り半分は期待していたため落胆する。

それでも弟がここで大人しく引き下がったのは、他にアテがあったからだ。

ああ、俺じゃないぞ。


両親はこのテの行事に力を入れていると語ったが、町ぐるみで精力的であることが大きく関係している。

特に目玉は、「プレゼント争奪戦である

町おこしも兼ねて行うクリスマスを盛り上げるための大掛かりなイベントだ。

参加者の子供たちはアトラクションクリアしつつ競争し、見事サンタのもとへたどり着けば、好きなプレゼントを後日貰えるというものだ。

素晴らしいのは、よほどの問題がない限り保護者の介入が禁止されていることだ。

まり、親に突っぱねられても、ここでプレゼントを手に入れるチャンスがある。

弟は勿論これに参加する。

あえて問題があるなら、弟のような子供はたくさんいて、親に目当てのプレゼントを貰える算段があっても、欲望というものは際限も貴賎もないことだが……。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん