はてなキーワード: 悟浄出世とは
文字は尚とうとばれなかったが、しかし、思想が軽んじられておったわけではない。一万三千の怪物の中には哲学者も少なくはなかった。ただ、彼らの語彙(ごい)ははなはだ貧弱だったので、最もむずかしい大問題が、最も無邪気な言葉でもって考えられておった。彼らは流沙河(りゅうさが)の河底にそれぞれ考える店を張り、ために、この河底には一脈の哲学的憂鬱が漂うていたほどである。ある賢明な老魚は、美しい庭を買い、明るい窓の下で、永遠の悔いなき幸福について瞑想めいそうしておった。ある高貴な魚族は、美しい縞しまのある鮮緑の藻(も)の蔭かげで、竪琴(たてごと)をかき鳴らしながら、宇宙の音楽的調和を讃(たた)えておった。醜く・鈍く・ばか正直な・それでいて、自分の愚かな苦悩を隠そうともしない悟浄(ごじょう)は、こうした知的な妖怪(ばけもの)どもの間で、いい嬲なぶりものになった。