実家のある田舎には中華料理が出てくる店はひとつしかなかった。夜はスナックになるような店。そこの店に土鍋と大皿を持っておつかいに行くのが子どもの仕事だった。持参した器に酢豚と餃子をそれぞれ5人前入れてもらう。料理が出てくるまでの間、きれいなお姉さんがポッキーやスルメを食べさせてくれるのが嬉しかった。
ここの酢豚は、とにかく衣が厚い。ぶよぶよの塊が肉の倍以上ひっついている。弾力と粘りがあって口を閉じて噛んでもクチャクチャ音がするほどだ。
この衣が酢豚のあんをこれでもかと吸っている。目に染みるほど酢の匂いがするのに、口に入れると意外とマイルド。あんの甘酸っぱさでご飯がすすむ。
先日、「あの店なくなっちゃった!」と実家の母から連絡がきた。母曰く突然重機が店を壊し出したそうな。まさか物理的になくなったとは思わずびっくりした。
もう食べられないと聞くと余計に食べたくなる。こんなことならもう少し実家に帰る頻度を増やして酢豚を食べておくべきだった。
奇麗なお姉さんを追うのが早いと思う