先日、たまたま入ったカレー屋で、注文を待つ間、カレーの香りとはいったいなんのにおいなのだろう、と考えた。
スパイスの香りだろうか。しかしスパイスとひとくちに言っても、ガラムマサラとか、コリアンダーとか、いろいろある。カレーによって使っているものも違うだろうし……。
そう思いながら嗅ぐカレーの香りは、鼻を抜け、喉を通り、お腹を鳴らす。
待ちきれずに銀色のスプーンをとると、ほんの一瞬だけ、自分が実家のテーブルについて、プラスチックのちいさなスプーンを握っているような気になるのだった。
言葉にならない香りは、言葉を知らないこどもの頃を思い起こさせる。
ものごころついたころ、家では私と姉のカレーだけが甘口だった。だからきっと、スパイスの香りに混じって、すこしマイルドで甘い香りがしていた。きっとそれは、私にとっていちばんしっくりくる「カレーの香り」で、言葉にはしきれない、私の思い出の中だけの香りだ。
自分だけというのは、さみしいような、とくべつなような感じがする。
ちいさなころ、そこら辺に落ちている石ころをとくべつなものだと思って集めていた。はじめは母にも内緒にしているのだが、そのうち、こっそり見せてあげたくなって、たから箱から出してしまう。それを見せて母がよろこぶとうれしくて、だけど私だけのたからものではなくなってしまったことに、すこしがっかりする。
同じ香りを嗅いだときには、思い出といっしょに、たから箱からそっと取り出されてくる。
注文したバターチキンカレーがやってくると、私はカレーの香りをたから箱に大事にしまって、スプーンを握り直す。
きしょいから漢字で書ける単語を平仮名に開くな
わかった♡これからきをつけるね♡