2020-08-21

生え際を後退させながら行きつけの床屋に通う話

床屋椅子に座って鏡の自分と向かい合うたび、キてるな、生え際が。と思う。

後退しているのだ。

薄毛は言い過ぎだけど、学生の頃に比べると確実に額が拡大している。

額の、特に右隅左隅(なんだ?この部分。なんていうんだ)が深刻だ。天然でソリコミみたいになっている。毛根がグレたのだ。

毎日見ているので、悲しいもの自分ではそれなりに受け入れているが、たまに床屋に行くとき問題だ。

俺は人生のどんな節目でも都内から出なかったために、同じ床屋小学生ときから20年以上通ってきた。

切ってくれる方も同じ人で、この人も20年分、歳をとった。おそらくタイミングを逸したのだろう、この方は、30を過ぎた俺のことをいまだに◯◯くん(俺の下の名前)とくん付けで呼ぶ。

注文も20年間毎回一緒で、3〜4ヶ月、ひどいとき半年間伸ばしっぱなしになった髪を、とにかく短くしてくれ、とお願いする。それでも額は広がっているので、徐々に別の技術必要になり続けているのだろうとは思う。

洗髪したあと前髪が全部後ろに流され、額が100%出る。出てきたデコアルマイト弁当箱、とは言わないが、筆箱をひっくり返したくらいには広い。

デコが広くなろうが別に恥じるものでもないはずだが、オープンしたとき不思議な気まずさを感じる。

理容師さん、20年経って、俺は額に筆箱を生じてしまいましたよ。

自分から、生え際広がっちゃいまして、と言うのもおかしいし、理容師さんも当然言及しない。

謎の恥ずかしさと気遣いみたいなものが双方からもやもや立ち上り床屋天井で渦を巻く。その下で俺のデコがぴかぴかしている。

じゃあ切っていきます、と言われ、お願いします、と答えるやり取りはずっと同じ。

シャキ、とハサミが入る。この最初のシャキが、子供の頃から好きだ。

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