25年前も同じ街を同じ夜中にとぼとぼと歩いていた。その頃俺は大学生で、眠れない夜にはこの街を意味もなく一人で夜通し歩いた。昼には確かにいたはずの人々が、夜になると嘘のようにいなくなる。廃墟のような、しかし生きた街の熱量はそのままに、人のいない静けさだけが街を覆っていた。
20年以上たってもこの街はあまり変化がない。目をあげると遠くに、かつては無かった背の高いビルが再開発地区に林立しているのが見えた。けれどその再開発がこの街までやってくる事はない。古ぼけたビルと狭い迷路のような街路が続くこの街……
俺も変わらない。変わったのは右手の中の携帯電話と財布の中身だけだ。あの頃感じていた不安や焦燥感、孤独は今もまだ俺とともにある。まるでリボ払いのように返済を先延ばしにしたまま、その感情の吹き溜まりは元金として俺の中にそのままそっくり残っているようだ。
歩行者用信号が点滅する。左折するイキのいい車に急かされて、俺は早足で横断歩道を渡った。
「堂々巡りですよ、お客さん!」ふと、ある台詞が頭に浮かんだ。あれは古いラジオドラマだったか……
堂々巡りか。そうだな。俺はこの夜を堂々巡りしている。今も。25年前も。同じ夜から出ることができないまま、ずっとグルグルと巡り続けている。