かつての未開な共同体では、疫病が起こったり不具が生まれたりすると、生け贄を捧げるなどの儀式をして、問題を「聖なる領域」に囲い込み、皆で安心するという操作がありました。僕たちの複雑な社会にも、実は似たような機能を持った操作があります。
例えば、訳がわからない事件が起こったときに、誰が悪いのか皆で考え、コイツが悪いんだって突き止めれば、カタルシス(感情浄化)が得られます。一般に、複雑な社会では、原因がわからないことが最も大きな不安要因になるので、是が非でも何かのせいにする。そういう操作を「帰属処理」と言います。
ところが、しばしば原因の帰属先として「異常なもの」が選ばれます。コイツは精神障害だとか、被差別民族出身だとか。「異形なるもの」を作り出し、そこに原因を帰属させれば、共同体を手つかずで温存できます。普通の生活を送っている自分たちから見ると全然違う人たちなんだという「異形」のカテゴリーに押し込めれば、問題が自分たちの共同体の「外側」にあることになり、自分たちの共同体は問題から隔離されるんですね。こういう操作を社会学では「切断操作」と言います。