「おい!てめぇ喧嘩売ってんのか」
と怒鳴られた。
日陰に入り視界が元に戻ったので声の方を見ると、お笑い芸人がコントで演じるようなチンピラがいた。
「おめぇやんのか?」
これは話が通じないなと思いながら、私は逆光で目が眩んだだけだと説明した。
「はぁ?意味わかんねぇよ!なめてんのか?」
しょうがないので私は逆光に照らされる地点まで戻った。
「逃げんじゃねぇ!」
照らされた地点で私はチンピラに、
「あっちを見て」
とお願いしたが、
「はぁ?なめてんのか?」
とこちらにメンチを切るばかりなので、私がチンピラの後ろに回りこもうとすると、その動きを追従したチンピラが思惑通りの地点に立ち逆光に照らされた。
「うぉ!まぶしい!」
正直ラリってるのだろうと思っていたが、チンピラは急に落ち着い多様な態度になり「すまない」と謝罪してきた。
昨日大切な人が亡くなったと。
それから何本か飲んだ後、チンピラは「ありがとうよ」と立ち上がりふらふらと歩き始め夕暮れの住宅街に消えていった。
その商店街を久しぶりに歩き逆光に照らされた時、私はあの日のチンピラのことを思い出した。
視界が元に戻ると、こちらを気まずそうに見ている人がいた。
そう。あのチンピラだった。
チンピラは居酒屋の店先で準備をしていたようで、私を見るなり頭を下げて「お店始めたんです」と静かに笑った。
チンピラ。ではなく店長は濃い目のハイボールと秋刀魚の刺身をサービスしてくれた。
その時の笑顔もまた眩しくて、私は少し目がくらんだような気がした。