好きな人が夢に出てきた。
彼女には恋人がいる。僕は西に引っ越してしまったから、もう会えないし、彼女がいま何をしているのか分からない。連絡は取れるのだけれど、そうしてしまうと、ただの友達として処理されそうで、怖くてできないでいる。どこにでもある陳腐な話だと思う。
夢は短かった。夢の中で彼女は懐かしい黒いシャツを着ていた。僕は床に寝そべって、上体を起こして彼女を見ている。彼女は「私がいないと死ぬ?」と聞いた。僕は、割とそうだと思う、と答えた。するといきなり彼女が僕にキスをした。嬉しさよりも驚きがあった。そして唇が離れる前に目が覚めた。早朝の仄暗い寝室。目覚めた時、自己嫌悪が酷かった。自分はなんて気持ちが悪いんだろう。こんな独りよがりな夢を見て、本当に汚い人間だと思った。次に情けなさがきた。この何ヶ月か、様々な形で何度も何度も彼女の夢を見ていたこともあり、自分の弱さにはうんざりだった。
死ぬかと聞かれて、割とそうだと思うと答えたのは、あながち間違いじゃない。僕は彼女のことで精神的にかなり参っていて、とにかく寂しくてつらいときにお酒の力を借りていた。そして、そのお酒のせいで救急車に運ばれた。あの時、周りに人がいなかったら、死んでいたかもしれない。他人にまで迷惑をかけて、救えないと思う。でも、死んでしまったら彼女に心配してもらえるかもしれないと思っていた節もある。死ぬ勇気なんてないけど、勢いでお酒を飲めばもしかしたら、と。そして、こんなことを考えている人間に彼女は振り向いてくれないだろうなと思う。さらに続けて、振り向くもなにも僕は特別でもなんでもない友人の一人じゃないか、彼女には恋人がいるし振り向くもクソもないよ、と思う。