「悪の反対は善、善の反対は悪じゃ。正義の反対は、別の“正義”あるいは“慈悲・寛容”なんじゃよ
正義とは、人の従わねばならん道理を言う。正義を行うとなれば、道理を守らせることにもなる。
それは必要なことじゃが、問題は道理が一つでないことじゃ。
“殺すな・奪うな”までは殆どの思想で共通じゃが、その先はバラバラじゃ
“男女は平等”かもしれんし、“女性は守るべきもの”かもしれん
“どんな命令にも従う”が正義なら、“悪い命令に逆らう”のもまた正義。
結局、みんな正しいんじゃよ。
道理に関する限り、正しいことは一つとは限らないんじゃ
じゃが、それでは困るから“法”がある。なにをしていかんかの約束じゃ。
……これも正しいとは限らんがね。
じゃから、結局のところはその時々で何が正しいのかよく考える必要があるじゃろうな。
結局のところ、みんなにとって最も良いことを探して選択するのが“善”なんじゃろう。
じゃから、正義が善とは限らん。ともすれば、自分の信じる道理を他人に押し付けることになるからな」
「……よくわかりません」
やらなきゃならんと思ったからやったんじゃろう?
本当にそれが正しかったのか、最善のやり方だったのか、ときどき反省してみるんじゃな。
いずれ、自分で納得できる時が来る」
「……はぁ。じゃあ、悪って何なんです?」
「一般的な定義から言うと、世の中のルールを破って他に迷惑をかける行為じゃな」
「でも、博士は“悪”なんですよね? どうしてわざわざそんなものをやってるんですか?」
「わははは、一般的と言ったじゃろ? ワシにとって、悪はロマンなんじゃよ。ロマン。わかるか?
ルールにとらわれないことじゃ!
希望、生命力、突破点、新しいもの。幸せになりたいという欲望!
昔は、“科学”も“自由”も“人権”も“平等”もみーんな“世の中の平和をみだす悪”じゃったんじゃよ」
「まさか!」
「なーに、ちょこっと歴史の本を読めばわかることじゃよ