飲み疲れた体でたばこ屋の脇の路地へ入ると、雨に濡れた地面が自販機の明かりを反射させている。
昼には薄暗かったはずのこの路地が、深夜になるとここまで明るく見えるのだから不思議だ。
少し前方へ目をやると、赤提灯が風に揺れている。無造作に並べられた待合席には誰もいない。
店の前に立って中の様子を窺おうとするが、結露がひどくて腰より上の高さは見えない。まあいい。
少し勢いをつけてドアを開けると、頭にタオルを巻いた若者が「いらっしゃい」と迎えてくれた。
右手には水商売風の女性と会社員らしき中年男性。平日だというのに随分と楽しげだ。
テレビの見える席に座ってラーメンを頼む。威勢の良い返事。コップに注がれた水が出てきた後、調理が始まる。
ラーメンの調理風景に興味はないので、私はテレビを楽しむことにする。
テレビではネコがコタツに入るかどうか、どうでもいいことを実験している。深夜番組らしい雰囲気だ。
結局コタツに入ったネコはたったの一匹だった。本当にどうでもいい。
テレビの実験が終わると共に、ラーメンが出てくる。そういえばここのラーメンは久しぶりだ。
少し黄色がかったとろみのあるスープに、細めの麺。チャーシュー、メンマ、ネギ。
テーブルに置いてある高菜を少し入れて、スープを飲む。どこにでもありそうでここにしかない味。うまい。
少し堅めの細麺はスープとよくマッチしている。ずるずると下品にすすると、体の芯が温まってくる。
〆のラーメンというのはこういうのでいい。高い完成度も奇抜さも必要ないのだ。
完食まで五分と少し。コップの水を飲み干した後、ご馳走様と告げて代金を支払う。
さて、通りまで出てタクシーを拾おう。