2022-10-22

老人増田と海

 増田老いていた。小さなスマホはてな匿名ダイアリーアクセスし、独りで日記を書いていた。

 1ブクマも付かない日が、既に八四日も続いていた。最初の四〇日は少年と一緒に日記を書いていた。しかし、ブクマの無いままに四〇日が過ぎると、少年に両親が告げた。あの老人はもう完全に「弱者男性」なんだよ、と。弱者男性とは、すっかり世間に見放されたということだ。

 少年は両親の言いつけ通りに自分アカウントログインし、一週間で三回もホッテントリ入りした。増田毎日ブクマ0で帰ってくるのを見るたびに、少年の心は痛んだ。彼はいつも増田を迎えに行って、増田日記トラバしたり、ブクマしたり、はてなスターをつけたり、Twitter拡散するのだった。増田はてな記法で書いたつもりの日記は、記号文字化けしていて、永遠の敗北を示す旗印のように見えた。

 増田は細くやつれ、首筋には深い皺が刻まれていた。増田に関しては何もかもが古かった。ただ、その両眼を除いては。彼の眼は、パープルスターと同じ色に輝き、喜びと不屈の光をたたえていた。

 「増田じいさん」少年増田に呼びかけた。「また一緒のアカウント日記を書きたいな。はてなスターも多少貯まったし」

 増田少年匿名日記の書き方を教えてきた。少年は彼を慕っていた。

「だめだ」増田は言った。「お前のアカウントは運がついてる。アカウントを変えないほうがいい」

「でも僕らは前に、八七日もブクマ0だった後で、三週間毎日ホッテントリ入りしたことがあったじゃないか

「あったな」増田は言った。「分かってるさ。お前が自分アカウントに変えたのは、俺の腕を疑ったからじゃない」

「親父だよ、アカウントを変えさせたのは。僕は子供から、従うしかないんだ」

「分かってる」増田は言った。「当然のことだ」

「親父には、信じるってことができないんだよ」

「そうだな」増田は言った。「でも俺たちにはできる。そうだろ?」

「うん」少年は言った。「はてなブックマーク話題少年ジャンププラス掲載ハイパーインフレーション』を一緒に読もう。日記はその後で書こう」

いいとも」老人は応じた。「はてな仲間として、一緒に読もう」

 二人ははてなブックマークで腰をおろした。多くのブクマカが増田からかったが、彼は怒らなかった。年配のブクマカたちの中には、彼を見て悲しむ者もいた。しかし彼らはそれを表には出さず、自民党ダメだとか、フェミとか、表現の自由戦士とか、おっぱいが揺れたかどうかとか、そういうことを穏やかに話すのだった。

(その後の話)

 その後増田は誠心誠意を込めて日記を書き、バズりまくって2000ブクマまで行った。だが、過激な内容だったため垢BANされてしまい、日記も消えてしまった。うなだれて帰ってきたところを少年が励ます。「これからは二人一緒で日記を書こうね。ぼく、いろんなもの教わりたいんだもの。」そう、老人はアカウントを失ったが、素晴らしい友人を得たのである。そして3ヶ月後、この経験を描いた日記「老人増田と海」がノーベル文学賞、いや増田文学に選ばれた。増田少年は手を取り合って大いに喜んだとさ。

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