2021-02-07

『国試後』の世界にようこそ

ついに向こう側――『国試後』の世界に来てしまった。

最後のFブロック問題を少しづつ解いている間、運命を少しずつ固めていくような気分だった。不安感が強かった。解答に自信がないわけではない。もしかしたら間違えてるかもしれない。その不正解が、不合格という未来に連なることが怖かった。でも、マークし終えると「これでそんな恐怖ともおさらばできる」と少しホッとした。問題に記入した丸とマークシートを見比べながら終了の時を待った。

試験官たちが、回収していたマークシートは、俺たちの運命のものだった。一つ一つ、機械のように手にとって向こう側へ持っていった。これで確定してしまうのか。試験が終わってもしばらく放心して動けなかった。

帰り道は、同期と問題の講評や今後の予定や研修先など、どこか浮ついた調子で語り合い、そのうちそれぞれの帰り道へ散っていった。

一人になって、届いていた挨拶LINEに返信しながら、ぼんやりとした気分のまま家に戻ってきた。この荒れ果てた部屋も、俺自身さえも、昨日と何一つ変わっていないのに、はるか遠くの別世界にいた。そう、今は俺は『国試後』の世界にいた。

ずっと『国試後』はもっと遥か遠い概念だと思っていた。国試の十日くらい前だったと思う。その朝シャワーを浴びていたときに、急に気づいた。

「あとちょっとで『国試後』の世界突入するのでは……?」

『国試後』はすべてが許される、夢の世界だ。寝坊も、夜ふかしも、ゲームも、動画も(飲み会ダメだけど)、あらゆることに罪悪感を感じる必要がない、そんな傍若無人世界なのである。心が折れそうなときは「国試が終わったら〇〇をしよう」「国試が終わったら✕✕を買おう」などと様々な妄想をしてきたが、ついに例のソレが来てしまったというのか。

今、その世界に足を踏み入れたという実感はない。

いや、あっていいものか。何を隠そうまだ何も終わってないのである合格か、不合格か、蓋を開ける必要があった。

採点サービス入力できないでいた。合格を手にするには、不合格を迎える覚悟を持たないといけなかった。どうやら、合格を得ること以上に不合格の恐怖のほうが強かったようだ。

そんな調子で立ち往生していた。果たして俺は、真の向こう側の世界に行けるのだろうか。

追記

割と安全圏で受かってそうだった。良かった!!!

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