2020-08-03

友人の爪を塗った話

きょう、友人の爪を塗った。

素人がちょろっと習って覚えた程度のジェルネイルだけど、すごく喜んでくれた。

今日から彼女は、何をするときにもきらきら光る爪を見ることになる。

死にたいと思ったときにも。


友人はすごく不器用に生きている。

たぶん家庭環境とか学校でのいじめとか、いろんなことが絡み合って、彼女から生きる自信を奪っていったんだと思う。

とあるごとに「いつ死んでもいいと思ってる」とか、「早く死ねいかなあ」とか、「死にたい」とか言う。

ちょっと喧嘩しただけで「生きててごめん」とか言い出すから、たまにすっごく面倒くさくなる。

うそんなこと言わないでよ、ずるいよと否定したくなる。しんどいね、つらいねと言ったあとで、でもわたしは死んでほしくないんだよっていつも言ってしまう。

死ぬなと言われることは、彼女にとってつらいことだろうに。


死にたがりの彼女は手首を切ったりはしないけど、指の皮を剥いたりする。

初めて見たとき、皮膚の下の真っ赤な肉のいろがちらりと見える指先に、正直ぞっとした。

やめなよと言ったけど、無意識でやめられないと言われた。

からわたしは古いジェルネイルの道具を引っ張り出してきて、むりやり彼女の爪を塗った。

目を輝かせて、うれしそうに自分の手を眺めたのち、きれいだねと笑った彼女は「でも傷があって見栄えが悪いね」と、そんな感じのことを言った。

何日か後に、しばらく皮を剥かずにいられたと報告してくれた。

きれいな指先が視界に入ると、ちょっと気分が良くなるね、と。


わたし彼女が好きだ。

嫌いなとこもあるし、喧嘩もする。メンヘラめんどくせえなと思うこともある。なんでわたしこんなめんどくさい人の面倒見てんだろ?とうんざりすることもある。

でも、話してると楽しい。すごいなと思うところもある。いつも助けてもらってる。わたし友達でいてくれてありがたいと思う。

からわたし彼女の爪を塗る。

死なないでねと口に出す代わりに。

もしも死にたいと思ったときに視界に入るように、わたしの代わりに止めてくれるように。

きらきらひかる指先を見て、彼女が少しだけでもいいから、自分を好きになってくれたらいいなと思う。


あなた自分が思ってるより素敵な人なんだよ」

「死んでもいい、どうでもいい人間なんかじゃないよ」

言いたいのに言わせてくれないめんどくさくて卑怯な友人に、押し付けがましくネイルアートを施すのは精いっぱいの仕返し。

わたしの施したネイルのせいで、彼女は死にそびれてしまうんだ。ざまあみろ。


いつか、お互いおばあちゃんになったときに「あのころはこんな気持ちでさ〜」と嫌みったらしく話せたらいいなと思うからもっとネイル勉強をすることにする。

8月だし夏っぽい色のジェルを買い足そう。

小さめの押し花とかもいいな。海っぽいのもいいかもしれない。

秋になったらべっこうネイルチャレンジしよう。

推しキャライメージネイルとか、やったら絶対喜ぶだろうな。

何十年か経ったら、わたしがうっかり病気とかで先に行ってもいいようにセルフジェルのやり方も教えてあげなきゃな。

いつまでも先のことを考えていたいな。

よろしくお願いしますね、ほんと。

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