僕には年の離れた兄がいた。
兄は昔はすごく成績がよかったらしいのだけど、中学のときに学校内で事件を起こしたとかで不良よばわりされるようになった。中学を卒業すると学区内で一番下の高校に進学した。高校でどう過ごしているのかはわからなかったけど放課後や休みの日にはオートバイによく乗ってた。
レーサーレプリカのオートバイをハーフカウルにしてたのが僕にはすごくかっこよく見えた。僕はお願いしてときどき後ろに乗せてもらってた。僕用に用意してくれた白いヘルメット。それをかぶってオートバイの後ろにまたがる。オートバイのごつごつした見た目に似合わないビーンっていう軽い音。信号は青。二人を乗せたオートバイはまわりの自動車を追い抜いていく。風景がびゅんびゅん流れていく。首筋に感じる風がすごく気持ちよくって兄の腰をつかむ両手につい力が入る。
隣の県へ続くくねくねした峠道を越えると町を一望できる小さな駐車スペースがあった。不良っぽい見た目をした兄にはちょっと似つかわしくないのだけど、ポケットから取り出すのは一冊のブルーバックス。兄はそれを読みながらいろんな話をしてくれた。
「おまえ知ってるか?」
「何を?」
「うん。こないだ聞いたよ。重力と強い力と弱い力と、あとなんだっけ?」
「電磁気力」
「そうそれ」
「4つの力はそれぞれ役割が違うけど絶対的な共通点がある。わかるか?」
「本よんでないもん、知らないよ」
「本には書いてない」
「じゃあもっとわかんないよ」
「考えてみろ。ダメならそのうち教えてやる」
その後、兄は町を出てずっと連絡がないままだった。だいぶたってから警察から連絡が入る。兄が死んだそうだ。父も母も泣いた。僕もものすごく泣いた。遺体に対面する。兄はこんなに小さかっただろうか。葬式を終えバスに乗る。あの峠道を越えて火葬場につく。棺にバイクのキーとブルーバックスを入れて火葬に出す。二時間後、キーと骨は残り、ブルーバックスは肉と一緒に灰になった。そして僕は兄のいない弟として大人になり進学し大学を出て就職し結婚した。
幸せな結婚生活だったと思う。ただ僕は妻のことをわかってやれていなかったんだろう。テーブルに置かれた離婚届を見て思う。
「4つの力の共通点はどれも二つの物質の間で作用するってことだ。いずれかの物質が欠けたらその間に作用する力なんてものはない」
僕と兄の間にあった力。僕と妻の間にあった力。それぞれ強くまた弱く、長く短く作用しあっていた。そして一方が失われることでそこにあった力はもうなくなった。もうなくなったんだと思う。
それでもテーブルの離婚届は力が作用する相手がいたことを証明してくれているような気がした。
本棚を見る。兄の持っていたブルーバックスと同じ本がある。あれも同じだ。兄と僕の間に何かの力が作用していたことを証明してくれている。
そんな気がした。
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「4つの力の共通点はどれも二つの物質の間で作用するってことだ。いずれかの物質が欠けたらその間に作用する力なんてものはない」 これは違和感ある記述だなあ。 物質がなくても...
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僕は一日最低十個のトラバを自分に課してますの
ことごとく不愉快 全部お前だったのか
よかった、一個もブクマしてないわ タイトルからして臭いんだよね、くっさいくっさいw