国会図書館は、日本唯一の国立の図書館であって、それだけに大変立派な建物だ。設備も充実しておりその最上階には食堂も入っている。周辺に食事する場所がない土地であるからこれはありがたいし、味も悪くない。
ちょうどお昼ごろ、読書にも疲れ休憩と食事をとりに食堂へ行こうと私は彼へ提案した。
私はカレーライス。彼は日替わりセットを注文した。(カレーライスはごく普通のカレーライス。日替わりセットはAとBの2種類あり、彼が注文したのはメインの皿に牛すじ肉と野菜を和風に煮つけたもの、それにお味噌汁、ライス、お新香がついている)カウンターで料理を頼み、用意されるのをしばし待つ。オレンジのお盆にカレーライスと日替わりセットが用意され、適当な席を見つけて、座る。
あまりいい趣味ではないが、私は彼がものを食べる様子を観察するのが好きだ。彼が食べ物に集中して、すらすらとに箸を口に運ぶ様子はなんとも言えない不思議な魅力があったし、真剣に食べ物に向き合う様子に好感が持てるからだ。もっとも、彼は私の観察を好まなくて、私は悟られないようにしているのだけれど、彼は目ざとく気づくと、ちょっと!と抗議する。
その日も、私は自分のカレーライスを食べつつ、おかずとご飯をバランスよく口に運んでいる彼の様子をちらちらと見ていた。
そうすると、彼のお皿に一つある大きなブロッコリーにいつまでも箸がいかないのがだんだんと気になっきた。次か、次かと気になってしまうが、彼の箸がいくのは人参であったり、タマネギであったり牛肉であったりして、ことごとく私の期待を裏切るのだ。
「ブロッコリー嫌いだったっけ?」
私は心につっかえたごく小さいものをスッキリさせたくて思わず彼に聞いてみた。
「いや、嫌いじゃないよ。でもほらこうしてご覧」
「ほらね。ブロッコリーの緑が無くなると、お皿の彩りが途端に寂しくなるだろう。だからね、しばらく残しておくのさ。こうすると食事もより美味しくたべられるだろう。食事にもこういった美意識が無かったら、それはもう動物が餌を食べているのと同じさ。僕は美意識を持った人間らしく豊かな食事を楽しみたいんだよ。」
「あら、そう」
食事も終わりに近づいた頃、いよいよ彼がブロッコリーに箸をのばした。
「美味しい?」
と私が聞くと。
と、笑って食べた。
(2014/1/26)