「名もなき家事」というのが流行しているけど、これは本当に間違っていると思っている。
第1に、「名もなき家事」という言葉で出てくる前は、「夫の家事が雑で嫌なんだけど」「言われた通りにやってくれなくてイライラする」という話でしかなかった。要は夫婦間の家事分担における愚痴であり、家事の水準などは価値観や好みの問題でしかなく、「言った通りに」させようとすること自体が間違いなのであるが、「名もなき家事」という言葉を与えた瞬間に、「正義」になってしまう。
第2に、「名もなき家事」という言葉は、手間のかかるほう、大変な方に合わせることを「正義」にしてしまう。ゴミ捨てについて、溜まったゴミを袋に入れてゴミ捨て場にもっていくだけの話を、「名もなき家事」はそれを10ぐらいの作業に分割して、一つ一つを完璧にこなすことを要求する。捨てるのを忘れている部屋のゴミ箱がいくつかあっても、「まあ来週の燃えるゴミの日でいいよね」でもぜんぜん構わないはずだが、「名もなき家事」と言った瞬間に、1日でも忘れることが「絶対に許されないこと」になってしまう。「ゴミの日を忘れるなんて!結局男って他人事なんだから!」というわけである。
本来家事は賃金労働ではなく、いくらでも楽をしたり手を抜いたりしても構わないはずだが、「名もなき家事」という言葉はそれを完全に否定する。自分たちで余計に大変にしていることに気づかず、「男性の意識が低い」せいにしたがる。そして大変になればなるほど、当然ながら男性はますます家事に参加できなくなる。
現実には、妻に「名もなき家事」で叱られているのは「意識が高い」男性のほうであり、「意識が低い」男性は逆に「お仕事頑張ってくれるパパに感謝」で夫婦円満だったりするのだが。