2022-08-15

この時期になると思い出す

もう10年ぐらい前の話だ。

俺は当時10歳か9歳ぐらいで、夏休み自由研究を『猫の生態を調べる』にしたんだ。

それでよく見かける灰色の毛並みをした野良猫のあとを毎日付いて歩いてさ、その猫の行動範囲とか、何をしているのかをノート片手に調べたんだ。

8月中旬だと思うから、たぶん今日ぐらいのことだと思う。

その日は河川敷沿いの歩道を歩く猫の後ろを付いて歩いてたんだ。

首に掛けたペットボトルの水もすぐに半分以下になるような日で、帽子越しにも暑いなと思ってた。

猫は時々振り返っては俺の姿を見て、気にしてない様子でまた歩き出す。

その繰り返しだった。

河川敷の道、先の方は木々が茂って小さな森林みたいになってて、当時の自分が小さかったからそう見えたのかもしれない。

まっすぐな道を遮るようなその小さな森林は先がどうなっているのかを隠してて、そこに入らないと先に進めない。

なんだか区切られているみたいで、そこに入るのが妙に怖くてさ、その先に行ったことがなかった。

でも猫は、そこに入っていた。

俺は一瞬躊躇したものの、自由研究だし、猫を見失っては駄目だと思ってその小さな森林に初めて入った。

驚いた。

森林の中を少し進んで葉っぱを払いのけて進むと小さな公園みたいな広場に出た。

河川敷の道は一本道なのにそこは小さな公園ぐらいには横幅があって、どう考えたっておかしい。

そこには猫が5匹いた。

いかけてきた猫以外は、見た事がない猫が。

猫たちはちっちゃな弧を描いて並んでてさ、追いかけている灰色の猫は左端に居た。

猫同士はお互いに顔を見合わせて目配せするように目をぱちぱちしてて、異様な光景に恐怖を感じなかったのは嫌な感じがしなかったから。

真ん中の猫が頷いたように見えて、それから灰色の猫が俺の前に来た。

俺の前でちょこんと座り、顔を上げて俺の目をまっすぐ見つめて……にゃーと少し鋭い声で鳴いた。

まばたきすると全部消えていた。

えっ?と思った。セミの声が耳をついた。俺はまっすぐな河川敷の道に立ち尽くしていた。

はいなくなっていた。あの森林も。

それから俺は灰色の猫を追いかけるのを止めた。

学校には、それまでに書いたノートの内容をまとめて提出した。

このことは書かなかったし、誰に話すこともなかった。

言ったところで誰も信じないだろうし。

あれは何だったのか今でも分からない。

それでも、この季節になると思い出す。

  • いーなー。猫神さまかなー 子供の頃って確かに「動物と異世界」みたいな経験するよね 自分もあるなあ

  • やすらかにおねむりください あやまちはもうにどと くりかえしませぬから

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