私は小中高と本の虫だった。
無人島に持っていくならスマホよりも本が良いと語るくらい本が好きだった。そう自負していた。大学に入るまでは。
大学に入ってから幾月が過ぎ、私はもはや本を手に取ることすらなくなっていた。理由はわからない。
あれほどまでにあった本への執着はもはや塵芥のごとく消え失せ、本以外に活力を見出せなかった私はそれから無機質なスクリーンを虚に眺めるだけの廃人と化した。
生気を失っていた。
それから何年経ったのだろう。あまりにも長い期間を無意に過ごしていたことだけは覚えている。私は誰からも必要とされないし、誰からも気にかけてはもらえない。かといって人目が気にならないわけでもなく、むしろ人目を怖がるようになった。私は身を守るために引きこもることしかできなかった。
うつ病だった。
気づいたらいつの間にか蝕まれている恐ろしい病魔。私はその中の茹でガエルの一匹に過ぎなかった。
それからは浮いたり沈んだりと地獄を行ったり来たりの毎日だった。
そんなときだった。ニコニコで「ひぐらしのなく頃に」がアップされていた。話には聞いたことがあった。だが見たことはなかった。ものは試しと視聴を始めた。
そこには普段忘れかけていた人の温もりがあった。それも痛いほどに。
何かが目の前を流れ出したのを感じた。まさしく浮かむ瀬だった。
この河を渡れば何か素晴らしいものが待っているのかもしれない。そう思って私は”ひぐらし”を見続けた。
私は舟を作ろうと思う。この流れを渡れるような頑丈な舟を。世間の波に揉まれても動じない舟を。
向こう岸に楽園があるのかどうかはわからない。ただ誰かが何かをやってくれるのを待つだけの人生は今日でもう終わりだ。
今日私は一歩を踏み出す。