そいつは夏になると玄関の上がりかまちに寝転んでいることが多かった。
誰かが踏んづけたわけではない。虫に噛まれたか?と思い身体を調べても特に異常はない。
結局その日は玄関に近づくことをずっと嫌がっていた。
後日、母親が、うちの犬にこんなことがあって、と近所の人に話をしてたとき
その人も犬を飼っている。うちと同じ犬種。
ただ、こちらの犬は老犬だ。
夜帰ってくると、老犬が「おかえり」というふうにのそのそ自分の元へやってくる。
飼い主が「ただいま」と抱き上げると、そこでふっと息を引き取ったそうだ。
うちの犬は若く元気だった。その老犬と散歩のとき出会うと「遊ぼう!」とじゃれつくも
老犬に「うるせえなあ」といったふうに無視されることが日常だった。
そんな仲良しとは言えなかった二匹だが、老犬は最期のお別れを言いに来たのかもしれない。
おわり。